THE WAY I HEAR, Fuchu 2012-2013  / 府中市美術館 公開制作57



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リサーチ



12月8日制作メモより

<聴き入った事のない音、聞いた事のない音、想像した事のない音、想像する事も出来ない音の「響き」とは?> 


矢崎町付近/ビール工場/宮本常一

research location
photo: mamoru

リスニング/リサーチ開始からちょうど1ヶ月が経った頃、府中市郷土の森博物館というところに立ち寄った。その際に、「宮本常一の見た府中」という本を見かけ、民俗学者の宮本常一は1961ー81年の20年間、府中に住み、無数の写真と幾つもの記述を残していたことを知った。

その夜、改めてその本を見直していると、ついさっき博物館からの帰り道に何気なく撮ったビール工場の画像とほぼ同じ場所を宮本常一が撮った白黒写真をみつけた。「1968年6月撮影」とある。他にも幾つか見知った場所が彼の写真には写っていた。

45年前の写真と、私がついさっき撮った画像を比べると、雑木の有る無し、積み上げられたビールケースの素材の違い、そんな表面的なこと以上に何か惹き付けられる気がして、何度も見比べてみた。また彼が府中に移り住んだ時のことを回想して書いた文章のなかに「ヒバリが空にさえずっていた」とか「夜になると・・・カッコウがなき」などとほんの短い描写ではあるが、音を感じる節が幾つかあって、もう少し宮本常一の足跡を追って、彼が聞いただろう「音風景」を追ってみる気になった。


富士見通り/SL/引き込み線

research location
photo: mamoru

宮本常一の足跡を辿る過程で、郷土の森博物館を再び訪ね、学芸員の方にいろいろとお話しを伺う機会を得た。その際に、私が府中市美術館を拠点に音のリサーチを行っていることを知ると、「常一とは特に関係ありませんが・・・」という前置きのあとに、美術館が位置する府中の森公園には、戦前から引き込み線がひかれていて、SLが走っていたということを教えて下さった。

しかも、そのSLが走っていたのは、私が毎日のように美術館に通うために歩いて「富士見通り」という道だった。公園と富士見通りが交わる形がどうにも不思議に思えていたが、そこへ線路を描き入れた時に、それも合点がいった。

現在、府中市美術館の建っている浅間町にはそう遠くない昔、米軍基地があって、その前は陸軍の施設があったことは知っていたが、SLの音を追うという意外な形でその時代へと私は足を踏み入れ、耳を傾けた。


浅間町付近/陸軍燃料廠/戦前〜戦後

listening memo画像:1941.10.23/浅間町付近のサウンドスケープを再構成したメモ

「桑畑が道路の両側にある旧人見街道を歩いて15分、そこは一面の雑木林が連なる広い草原とでも言える通称人見が原古戦場、そこに庁舎の建設が陸軍航空本部の統括下で急ピッチに進んでいた。」(「戦火の回想」/府中市企画調整部企画課 より)

SL用の引き込み線は、1940年に浅間町に建設が開始された陸軍燃料廠という燃料の研究施設へ主に石炭などを運び入れるために敷設され、戦後は米軍に接収され、いつ頃からかSLが走る事はなくなり、1975年に現在の富士見通りが完成する前の間、廃線状態となっていたらしい。

私はSLの写真や、その他の詳細をつかもうと、あれこれ資料をあたってみたが、軍事施設に直接関わるものであったせいか、その姿を捉えることはなかなか出来なかった。

しかし、その過程で読んだ、回想録、日記、空襲の記録、その他の文献、また当時の航空写真や地図から得た情報を年代順に整理していくことで、時代の空気とともに、時々の具体的な音風景を思い起こすことが出来る様になっていた。私の耳には、その辺りで交わされていた会話もはっきりと聴こえてきた。そしてそれをリスニングメモとして書きおこしてみる事にした。


浅間町付近/米軍基地/基地跡地

listening memo
画像:1968.5.28/浅間山付近のサウンドスケープを再構成したメモ

SLの音を追う過程で、資料が限られていたこともあってインタビューを試みた。その中で、米軍基地となり、基地跡地となってゆく60、70年代の浅間町付近の音風景に接することになった。

そして、それはまさに宮本常一が聞いたかもしれない音風景であった。


口述用のスコア

score 1968

リサーチから得た過去のサウンドスケープも、リスニングから得たサウンドスケープと同じ様に、パフォーマンスのために考案した「口述用スコア」に返還し、繰り返しリハーサルしつつ、身振り、発話の間合いなどをはかっていった。



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